研究概要 |
New Zealand Black(NZB)系マウスと正常C57BL/6系マウスのF2 intercrossマウスを作製し、抗原特異的な免疫寛容を誘導するモデル寛容原としてPEG-修飾OVAと超遠心精製ウシ血清アルブミン(DBGG)を用いて、個々のF2 intercrossマウスの免疫寛容誘導能を評価した。さらに染色体上に散在するマイクロサテライトDNAの多型を遺伝しマーカーとして、NZ8系マウスの免疫寛容誘導能の欠如を規定する遺伝子座を検索した。その結果、第1、第3および第13染色体上に有意な連鎖を見いだし、責任遺伝子座をDit-1,Dit-2,Dit-3と命名した。これらのうち、特にDit-1は第1染色体テロメアに存在する、自己免疫疾患感受性遺伝子Hig-1と相同である可能性が強く示唆されたので、Hig-1遺伝子の候補である抑制性Fc受容体遺伝子、Fcgr2bについて、これを欠損したknockoutマウスについて免疫寛容誘導能を検討した結果、Fogr2b欠損マウスがNZB系マウスと同様の免疫寛容誘導能の欠如を示すことが明らかとなった。これらの事実により、NZBマウスにおいては、抑制性Fc受容体遺伝子Fcgr2bと第3染色体上の未知遺伝子の関与によって、通常では免疫寛容を誘導すべき可溶性の抗原-抗体複合体が特異的B細胞の増殖と分化を促しているとの洞察を得るに至った。本研究において我々は自己免疫疾患発症の基盤となる量的なcomponent phenotypeに着目して研究を進め、その方法の有用性を示した。抑制性Fcgr2b遺伝子はB細胞terminal differentiationすなわち、プラズマ細胞への分化過程において自己反応性クローンを抑制する役割を担っていると考えられる。本研究の成果は全身性自己免疫疾患の発症機序解明のみならず、抗原特異的なimmune interventionの手段を開発する観点からも極めて重要な意義を持つものである。今後、Dit-2およびDit-3の責任遺伝子の同定をも含め、さらに研究を継続する計画である。
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