マウス胚性腫瘍(EC)細胞には、未分化状態にありながらも不活性X染色体を保持しているものが存在する。これまでにそのようなEC細胞株のひとつであるMC12を用いて、MC12が保持している不活性X染色体はその形質(ヒストンやDNAにかかわる修飾など)は、体細胞における正常な不活性X染色体と変わらないものの、その上にあるhprt遺伝子の再活性化の頻度が体細胞のそれと比べて著しく高いこと、および、再活性化自体もhprt座の再活性化にとどまらずX染色体全体に及ぶ再活性化が高頻度で起きていることを明らかにしてきた(HAT耐性となったクローンの約半数でX染色体全体にわたる再活性化が起きていた)。 体細胞では認められないこの不活性X染色体、言い換えるとテロクロマチンの不安定性の原因を探るために、未分化細胞特異的に発現している遺伝子をデーターベースから抽出して(NCBIのdigital differential displayを用いて選抜を行った)、これらについて解析を行った。その中で特にMC12細胞でのヘテロクロマチンの不安定性と関連が高いと思われた5遺伝子について強制発現実験とdsRNAによる一過的なノックダウンをおこない、これらのうちのひとつの遺伝子の強制発現によって染色体全長にわたる再活性化の頻度が上昇することが明らかになった。現在、この強制発現株においてノックダウン実験を行っており、dsRNAによる再活性化の変化が確認出来ればこの遺伝子産物がヘテロクロマチンの不安定化に働いていることが証明出来る可能性がある。
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