近年エストロゲンによって誘導される遺伝子(エストロゲン応答遺伝子)が多数同定され、エストロゲン作用の多彩さはエストロゲン応答遺伝子の発現パターンの多様性によるものと想定されている。そこで本研究では乳癌におけるエストロゲン応答遺伝子の発現及び制御をin vivoとin vitroの両面から検討した。 まず外科手術で得られた乳癌組織(20例)において、マイクロダイセクション法によって癌細胞のみを分離後、網羅的マイクロアレーを行った。その結果、下記のようなエストロゲン作用に関連すると思われる興味深い遺伝子を新たに見出した。 1.Efp:乳癌組織におけるEfpの発現を免疫組織化学的に検討すると、73%の症例でEfp陽性像が観察された。Efp陽性乳癌はエストロゲン受容体(ER)αやリンパ節転移と相関し、有意に予後不良であった。従ってEfpはエストロゲン依存性乳癌増殖に重要なエストロゲン応答遺伝子と考えられた。 2.ERRα:ERRαはERαと高い相同性をもつ核内受容体である。乳癌組織においてERRαの発現を検討すると、ERRαの有無によりエストロゲン応答遺伝子群の発現パターンに差異が観察され、ERRαが乳癌組織におけるエストロゲン作用を修飾している可能性が推察された。またERRα陽性乳癌は有意に再発しやすくかつ予後不良であった。 3.PPARγ:核内受容体PPARγは39%の乳癌症例で発現がみられ、ERαの発現と強く相関した。MCF7乳癌細胞においてPPARγを活性化させると、ER活性が低下し、エストロゲン応答遺伝子の一部の発現の抑制が観察された。従ってPPARγはERRα同様エストロゲン作用を修飾していると考えられた。
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