今年度はまず、CESH(comparative expressed sequence hybridization)の方法論を確立した。次に、胃癌、食道癌の手術材料を用いて、粘膜内および粘膜外浸潤部から採取した腫瘍組織の凍結材料からDNAとRNAを抽出し、CGHとCESHによりゲノムコピー数および遺伝子発現の網羅的解析結果を比較した。 1)近4倍体と近2倍体の胃癌細胞株とreferenceとしてリンパ球を使って、CESHの結果とcDNAマイクロアレイの結果とを比較した。その結果、両者の一致率はCESHの標識方法によって大きく異なり、これまでCESHで用いられてきたDOP-PCR標識はマイクロアレイとのconcordanceが50%以下と低かったが、pre-cDNA標識では約80%、random primerによるpost-cDNA標識では約70%のconcordanceが得られた。この結果から、次に示すprimary tumorのCESHではpre-cDNA標識を用いることにした。 2)食道扁平上皮癌の病変内の多数箇所にCGHとCESHを用いて染色体レベルでのゲノムコピー数および遺伝子発現の変化を検出し、粘膜と腫瘍深部でのゲノムコピー数と発現パタンの差を明らかにした。この場合、referenceは正常扁平上皮を用いた。CGHでDNAコピー数の減少した部分は、CESHでも有意な発現低下が確認できたが、DNAコピー数の増加した部分は必ずしも発現亢進を伴わなかった。逆に、ゲノムの増加が無く発現が亢進した部分もみられた。粘膜部と深部では発現パタンが一致することが多かったが、深部でのみ発現亢進の見られた染色体部分があった。その場合、深部でDNAコピー数の増加は見られないことが多く、環境変化により遺伝子の発現レベルが変化した可能性が考えられた。胃癌の方は現在データの解析中である。
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