本研究は遺伝子発現の変化がどの程度ゲノムコピー数の変化を反映しているのか、粘膜生検組織から腫瘍深部の浸潤先進部での遺伝子発現がどの程度推定できるのかという問題に対し、胃癌細胞株と食道癌、胃癌の手術材料を用いて、CESH (comparative expressed sequence hybridization)による染色体レベルでの遺伝子発現パタンとCGH (comparative genomic hybridization)によるゲノムコピー数の網羅的解析を行った。まず、CESHの方法論を検討し、一般的に使われているDOP-PCR標識よりpre-cDNA標識の方がcDNAマイクロアレイの結果との一致率が高く、以後この方法を用いることにした。次に、未分化型胃癌由来株(Kato-IIIとAGS)を用いて、遺伝子群がクラスターとして発現が変化することにより、cDNAマイクロアレイだけでなく、CESHでもそれが検出できること、CGHの結果との比較から、クラスターとしての発現の変化の原因は染色体レベルでのコピー数変化だけでなく、転写レベルでの調節も重要であることがわかった。最後に、食道癌、胃癌の手術材料を用いて、ゲノムコピー数の変化と発現の変化との関係を調べた。CESHでstemline変化として発現亢進と低下がみられた部分では、その約50%で、対応する染色体部分のコピー数の増加と減少がみられ、逆にstemline変化として染色体部分のコピー数が増減した部分は、そのほとんどの部分で、それぞれ発現の亢進と低下がCESHで検出された。一方、sideline変化として発現が変化した場合には、対応する染色体部分のコピー数はほとんど変化していなかった。これらのことは、粘膜内の複数箇所からの生検組織でstemline変化を割り出せば、浸潤先進部の遺伝子発現を粘膜の生検組織で推定し得ることを示唆している。
|