研究概要 |
胃癌の増殖進展に関与する増殖因子・受容体系遺伝子のうち、HER-2遺伝子において、膜貫通部位コード領域にアデニンがグアニンとなることにより、イソロイシン(Ile)からバリン(Val)へのアミノ酸置換を伴う一塩基多型(SNP)が同定されている。そこで、胃癌212症例と健常対照症例287症例において、HER-2遺伝子の膜貫通部位コード領域における一塩基多型の有無をPCR-RFLP法で検討したところ、遺伝子型Ile/Ile、Ile/Ile、Val/Valの遺伝子型の分布は胃癌症例では、各々146(68.9%)例、56(26.4%)例、10(4.7%)例、対照群は234(81.5%)例、48(16.7%)例、5(1.8%)例で、深達度、リンパ節転移、および腫瘍進行期との間に有意な相関が認められた。すなわち、より深い深達度を示す症例、リンパ節転移を伴う症例、より進んだ病期にある症例、および分化の低い症例ではVal alleを持つVal/Val, Ile/Val遺伝子型が統計学的に有意に多かった。さらに、早期胃癌辺縁部の性状とHER-2遺伝子の膜貫通部位コード領域における一塩基多型の相関性の有無を検討した。早期胃癌68症例のうち、腫瘍辺縁部を再度評価したところ、辺縁明瞭、すなわち平滑な癌が42症例で、辺縁不明瞭すなわち、辺縁が平滑でない症例が26症例であった。辺縁明瞭な癌42症例のうち、Ile/Ileが32(76%)症例で、Ile/ValまたはVal/Valが10(24%)症例で、辺縁不明瞭な26症例のうち、Ile/Ileが22(85%)症例、Ile/ValまたはVal/Valが4(15%)症例であった。今回の検討では早期胃癌辺縁部の明瞭度とSNPの間に有意な相関性はみられなかった。また、EGFの5'非翻訳領域(61)のSNP(A/G)については、胃癌症例と対照症例との間に遺伝子型の有意差がみられ、A alleをもつ症例が胃癌に高頻度であった。今後は、症例数をさらに追加して同様の検討を行い、浸潤局所および腫瘍中心部の間質細胞の表現形質(とくに、筋線維芽細胞のマーカーであるα平滑筋アクチン発現の有無、および未分化幹細胞のマーカーであるCD34発現の有無)との相関性の有無について検討する。また、増殖進展に関与するその他の遺伝子のSNPについても検討する。
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