研究概要 |
胃癌の増殖進展に関与するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)のうち、特にIV型コラーゲンを特異的に分解するMMP-9の遺伝子において、プロモーター領域にシトシン(C)がチミン(T)となることにより、MMP-9遺伝子の転写活性が上昇する一塩基多型(SNP)が同定されている。そこで、胃癌177症例と健常対照症例224症例において、MMP-9遺伝子のプロモーター領域における一塩基多型の有無をPCR-RFLP法で検討したところ、遺伝子型C/C、C/T、T/Tの遺伝子型の分布は胃癌症例では、各々133(75.1%)例、38(21.5%)例、6(3.4%)例、対照群は156(69.7%)例、63(28.1%)例、5(2.2%)例で、より深い進達度を示す症例、リンパ節転移を伴う症例、より進んだ病期にある症例、および分化の低い症例ではC/T, T/T遺伝子型が統計学的に有意に多かった。次に、早期胃癌辺縁部の性状とMMP-9遺伝子のプロモーター領域における一塩基多型の相関性の有無を検討した。早期胃癌77症例のうち、腫瘍境界部を組織学的に評価したところ、辺縁明瞭、すなわち平滑な癌が61症例で、辺縁不明瞭すなわち、辺縁が平滑でない症例が16症例であった。辺縁明瞭な癌61症例のうち、C/Cが49(80%)症例で、C/TまたはT/Tが12(20%)症例で、辺縁不明瞭な16症例のうち、C/Cが13(81%)症例、C/TまたはT/Tが4(19%)症例であった。今回の検討では早期胃癌辺縁部の明瞭度とSNPの間に有意な相関性はみられなかった。 アポトーシスに関連する膜蛋白をコードするDR4(Death Receptor 4)遺伝子の細胞外ドメインには、シトシン(C)がクアニン(G)となることにより、スレオニン(Thr)からアルギニン(Arg)へのアミノ酸置換を伴うSNPが同定されている。そこで、胃癌274症例と健常対照症例344症例において、DR4遺伝子のSNPの有無をPCR-RFLP法で検討したところ、遺伝子型Thr/Thr(C/C)、Thr/Arg(C/G)、Arg/Arg(G/G)の遺伝子型の分布は胃癌症例では、各々250(91.2%)例、23(8.4%)例、1(0.4%)例、対照群は317(92.2%)例、21(6.1%)例、6(1.7%)例で、深達度、リンパ節転移、および腫瘍進行期のいずれとも有意な相関が認められず、うち早期癌103例において組織型別に有意差はなかった。
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