研究概要 |
API2-MALT1キメラ遺伝子はMALTリンパ腫に特異的な遺伝子異常である.この遺伝子異常を簡便に検出するMultiplex RT-PCR法を開発し(Am J Pathol,2001),肺,皮膚,眼付属器,大腸,胃のMALTリンパ腫それぞれにおいて,キメラ遺伝子の持つ臨床病理学的意義を明らかにした.肺MALTリンパ腫では,41%の症例にキメラ遺伝子が検出された.キメラ遺伝子は自己免疫疾患を有する患者に少なく,血清LDHは正常範囲を示す症例に多く認められた.また組織学的には典型例が多く,核BCL10発現と高い相関を示した(Am J Pathol,2003).皮膚MALTリンパ腫アジア症例24例を解析したが,キメラ遺伝子や,腫瘍発生に関連が深いと考えられているボレリア感染は明らかではなかった.しかしキメラ遺伝子と関連が深い核BCL10発現はしばしば認められ,臨床的に結節形成と関連を認めた(Am J Surg Pathol,2003).眼付属器MALTリンパ腫では13%の症例にキメラ遺伝子を検出した.これらの症例は同時に多くの染色体に数的異常を示すことが多く,キメラ遺伝子陽性眼付属器MALTリンパ腫では,少なくとも一部では,びまん性大細胞性リンパ腫へ移行する可能性が示唆された(Modern Pathol,2003).大腸MALTリンパ腫では,15%の症例にキメラ遺伝子を認めた.キメラ遺伝子は男性症例に多く認められ,また高い臨床病期と相関を示した、ゆえに大腸MALTリンパ腫では,キメラ遺伝子が陽性の場合,十分な経過観察が必要である(Modern Pathol,2003).多臓器に浸潤する胃MALTリンパ腫を解析した結果,これらはAPI2-MALT1キメラ遺伝子陽性例やピロリ菌陰性例が多く,また除菌治療に抵抗性であることが示された(J Gastroenterol,2004).キメラ陽性胃MALTリンパ腫症例は全例除菌治療に抵抗性を示したため,除菌反応性とキメラ遺伝子の有無から,胃MALTリンパ腫を(A)除菌反応群(B)除菌抵抗性キメラ遺伝子陰性群(C)除菌抵抗性キメラ遺伝子陽性群に分類した.そして,それぞれの群はユニークな特徴を持つことが明らかとなった(Am J Surg Pathol,2004).この他,若年者に発症したHIV陰性API2-MALT1キメラ遺伝子陰性肺MALTリンパ腫を報告した(Leuk Lymphoma,2004).
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