研究概要 |
1.外科切除された肺腺癌(AD)20例,扁平上皮癌(SQ)21例、大細胞癌(LCC)9例、定型的カルチノイド(TC)30例、非定型的カルチノイド(ATC)13例、大細胞性神経内分泌癌(LCNEC)67例及び小細胞癌(SCLC)78例の神経内分泌分化の有無を、chromogranin Aと、gastrin-releasing peptide, calcitoninなど8種のホルモンの免疫染色にて検索した。 2.高感度非放射性in situ hybridization法を用いて、前記外科切除腫瘍と、LCNEC/SCLCの株化細胞15株におけるhAHS1の発現を調べた。hASH1が神経内分泌分化の性格を有する腫瘍のみに発現し、hASH1は肺癌細胞の神経内分泌分化への決定遺伝子であることが示された。 3.全ての肺の神経内分泌腫瘍にhASH1が発現するのはではなく、肺の神経内分泌腫瘍におけるhASH1の発現がchromogranin A及び複数のホルモンの発現と強く相関し(p<0.0001),hASH1は広い意味の一般的な神経内分泌分化ではなく、肺癌のendocrine phenotypeの決定遺伝子であることが強く示唆された。 4.肺神経内分泌腫瘍のスペクトラムにおいては、hASH1の発現が腫瘍分化度と関係することを証明した。hASH1はほぼ完全に分化したTCには発現せず、比較的分化度の低いATCと低分化のLCNECとSCLCには発現し、肺癌のendocrine phenotypeの決定に当たってhASH1が初期因子であることが示唆された。 5.臨床病理学的研究では、hASH1(-)患者よりhASH1(+)患者の生存期間が有意に短く(p<=0.041)、SCLC患者においてはhASH1が予後不良因子であることが証明された。なお、カルチノイドとLCNEC患者においては、hASH1発現の有無と患者予後との相関は認めなかった。 6.雌雄のhASH1(MASH1)heterozygoteマウスを掛け合わせ、組織学的、電子顕微鏡的、免疫染色、in situ hybridization及び二次元電気泳動検討用の各胎生期の胎児個体を採取した。hASH1^<-/->胎児の肺には正常の神経内分泌細胞が欠損していることが確認され、新生仔マウスが顕著なチアノーゼを呈しながら生後24時間以内で死亡し、hASH1が肺の神経内分泌細胞の発育並びに肺の正常機能の維持には不可欠の因子であることが示された。なお、現時点では光顕並びに電顕レベルにて、hASH1^<-/->胎児個体肺とhASH1^<+/+>胎児個体肺との間には明らかな形態学的な差は認めなかった。現在、蛍光標識二次元のディファレンスゲル電気泳動法を用い、hASH1^<+/+>とhASH1^<-/->胎児個体の肺組織における蛋白質発現の差異を解析中である。
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