研究概要 |
1.MASH1^<-/->新生仔マウスがチアノーゼを呈しながら生後24時間以内に死亡し、その肺にはNE細胞が欠損していることが確認され、hASH1が肺のNE細胞の発生並びに肺の正常機能の維持には不可欠の因子であることが示された。なお、現時点では光顕並びに電顕レベルにて、hASH1^<-/->とhASH1^<+/+>胎児肺の間には明らかな形態学的な差異は認められず、蛍光標識した二次元電気泳動法を用いた検討でも明らかな蛋白質発現の差異は認められなかった。 2.肺の定型的カルチノイド(TC)13、非定型的カルチノイド(ATC)5、大細胞性神経内分泌癌(LCENC)44、小細胞癌(SCLC)49例におけるcyclin B1の発現とRb/p16/cyclin D1pathway(Rb pathway)の破綻の違いを検討した。cyclin B1の過剰発現は、TC 0、ATC 1(20%)、LCNEC 37(84.1%)、SCLC 41例(83.7%)に、Cyclin D1の過剰発現は、TC 2(15.4%)、ATC 1(20.0%)、LCNEC 14(31.8%)、SCLC 5例(10.2%)に認められた。Rbについては、TCとATCは全症例が陽性で、LCNECでは43例中21例(48.8%)、SCLCでは45例中38例(84.4%)が陰性であった。p16欠損は、TC 1(14.3%)、ATC 2(40.0%)、LCNEC 7(18.4%)、SCLC 4例(8.3%)に認められた。cyclin D1の過剰発現、Rbおよびp16の欠損のいずれかが認められるものをRb pathwayの異常とみなすと(Rb+/p16-/cyclin D1-の場合を除く)、TC 2(28.6%)、ATC 1(20.0%)、LCNEC 28(77.8%)、SCLC 41例(93.2%)にRb pathwayの破綻が確認された。cyclin D1の過剰発現がTCとATCにおいてのRb pathway破綻の唯一の原因であり、LCNECとSCLCにおいてはRbの欠損が最も高頻度に認められる因子であった。また、SCLCよりLCNECにおいてのcyclin D1の過剰発現とp16の欠損の頻度も有意に高かった。TC, ATC, LCNECとSCLCの何れのカテゴリーにおいても、cyclin B1とKi-67の間に正の相関を認めた(P<0.0001、r=0.742)。各組織型の腫瘍においては、何れの因子も患者予後と相関しなかった。以上より、(1)細胞周期のG2-M移行期の制御においては、low-gradeのTCとATCはほぼ正常であるが、high-gradeのLCNECとSCLCではcyclin B1の異常発現が一般的な現象であり、細胞周期制御の面においてもTC/ATCとLCNEC/SCLCが異なるカテゴリーであると考えられた。LCNEC/SCLCにおいての高頻度のcyclin B1の異常発現は高頻度のp53異常が原因であることが推測された。(2)各組織型において、cyclin B1とKi-67の発現が強く相関し、cyclin B1が肺の神経内分泌腫瘍の増殖能を規定する因子の一つであることが強く示唆された。(3)Rb pathwayの介するG1チェック・ポイントにおいても、細胞周期制御の異常はTC/ATCでは低頻度、LCNEC/SCLCでは高頻度であった。更に、各組織型の間には、Rb pathway破綻のメカニズムが異なっており、TC/ATCにおいてはcyclin D1の過剰発現のみ、SCLCにはRbの欠損、LCNECではRbの欠損並びにcyclin D1の過剰発現とp16の欠損が要因であった。(4)上記因子は何れも患者予後とは関係せず、予後因子としてはこれらの因子がtumor type specificであると推測された。
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