膵臓は自己融解が著しい組織であり、mRNAやタンパク質は変性しやすく、速やかに適当な固定液を用いた固定が重要である。そこで、ラットの膵臓を以下の固定液で固定し、固定液の影響を検討した。(1)10%中性緩衝ホルマリン、(2)4%パラホルムアルデヒド、(3)10%非緩衝ホルマリンを基本とし、さらにそれぞれに0.5%グルタールアルデヒドを加えたもの、マイクロウェーブ照射を併用したものなど12種類の固定方法で一昼夜、室温で固定し、自動包埋装置を用いてパラフィンに包埋した。ISH法にはインスリンの発現はジゴキシゲニン標識cRNAプローブを用いて検討した。その結果、マイクロウェーブを用いて10%ホルマリンで間欠的に6秒照射を5回トータル30秒、間に6秒間の停止を加える方法で固定後、さらに室温で昼夜固定する方法で最も良い結果が得られた。10%ホルマリン固定液単独(病理長期保存材料と同じ)での固定も良好な結果が得られた。グルタールアルデヒドを加えたものや、4%パラホルムアルデヒド固定では良好な結果を得ることが出来なかった。自己融解の強い組織ではマイクロウェーブなどを用いて速やかに固定する必要があることが確認された。また、病理検査室に保存されている10%ホルマリン固定・パラフィン包埋された外科材料で明瞭なmRNAの発現を捉えることが出来、PDECGFとhASH-1の発現をそれぞれ大腸癌と肺癌で検討し報告した。肺癌を用いた4%パラホルムアルデヒドで4℃、一昼夜固定した組織と病理検査室にて10%ホルマリンで室温2-3日固定した同一組織ではそれぞれ2-5μg/mlで37℃10分と10-20μg/mlで37℃20-30分proteinase Kで処理することで、同様の結果が得られることが明らかとなった。固定の強さにより、proteinase Kの時間や濃度を変える必要があることが明らかとなった。
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