白血病・骨軟部腫瘍の原因の大部分は染色体異常に起因している。特に、悪性軟部腫瘍においては、染色体転座による腫瘍細胞特異的なキメラ融合蛋白質の出現が、腫瘍発生の重要な要因の一つであると考えられている。これらの悪性軟部腫瘍の治療は化学療法に抵抗性であるため、手術が第一選択となる。しかし、根治的な手術ができない症例、また肺に転移した症例は予後不良である。このような背景から、新たな治療の選択肢の一つとして、短鎖干渉性二重鎖RNA(siRNA)を用いたキメラ遺伝子を標的とする治療法の開発を目的としている。今年度は、軟部肉腫の中で、TLS-CHOPキメラ遺伝子を発現している粘液型脂肪肉腫に注目した。そこで、まず我々は、TLS-CHOPキメラ遺伝子を恒常的に発現する培養細胞株の樹立を行った。次にTLS-CHOPキメラ遺伝子の発現を蛋白レベルで確認するため、抗体の抗原として、正常では存在せずキメラ遺伝子の形成された時のみ翻訳される領域の合成ペプチドを作成した。このペプチドをウサギに免疫して、TLS-CHOPキメラ遺伝子特異的ポリクロナル抗体の作製に成功した。さらに、本キメラ遺伝子を特異的な標的とするsiRNAを合成した。TLS遺伝子は多くの組織に発現しているが、CHOP遺伝子は正常の状態では発現しない。このため、siRNAの設計にあたっては、キメラ遺伝子のCHOPに相当する部分を標的にした。その結果、TLS-CHOPキメラ遺伝子の発現低下を示す配列を同定した。一方、siRNAを臨床応用する場合の問題点として、組織内への導入が困難なことがあげられる。本研究においては、最近開発されたsiRNAベクターに改良を加え、ウイルスベクターからsiRNAを産生できるようなレトロウイルスベクターの開発を行なった。
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