悪性軟部腫瘍においては、染色体転座による腫瘍細胞特異的なキメラ融合蛋白質の出現が、腫瘍発生の重要な要因の一つであると考えられている.このような背景から、新たな治療の選択肢の一つとして、短鎖干渉性二重鎖RNA(siRNA)を用いたキメラ遺伝子を標的とする治療法の開発を目指した.これまでの研究から、TLS-CHOPキメラ遺伝子に対するsiRNAを用いた治療法の開発を検討してきた.その結果、TLS-CHOPキメラ遺伝子の発現量を1/5に減少させ、腫瘍細胞の増殖を25%程度抑制することのできる特異的siRNA配列を確定した.しかしながら、in vivoの動物モデルにおいては、腫瘍細胞増殖抑制効果は確認されなかった.一方、TLS-CHOPは転写因子として機能することが知られている.その下流分子の一つであるDOL54も癌遺伝子として作用することが判明しており、DOL54特異的siRNAは1種のMLS/RCLS由来培養細胞の増殖を顕著に阻害した.しかし、DOL54はMLS/RCLSの半数程度でしか発現誘導されない.そこで、TLS-CHOP発現vectorまたはcontrol vectorを導入した細胞同士、及び、MLS/RCLS由来の細胞にTLS-CHOP siRNAまたはcontrol siRNAを導入したもの同士でそれぞれマイクロアレイを行ない、TLS-CHOPの下流で、分子標的治療の標的分子として治療効果の高い分子の検索を行なった.現在、標的分子の候補を50遺伝子に絞り込んで腫瘍増殖抑制能を検討している.また、我々はsiRNAと脂肪分化誘導剤の両者の併用による粘液型脂肪肉腫の治療の可能性も検討している.一方、最近がん遺伝子産物に対する特異抗体を用いた分子標的治療が開発され、臨床においても大きな効果が示されている.このような背景から、本年度、我々は粘液型脂肪肉腫に特異的に発現するTLS-CHOPキメラ遺伝子に対する特異抗体を開発した.現在本抗体を粘液型脂肪肉腫由来の培養細胞に導入し、その増殖抑制能を検討している.今後はさらに、臨床応用にむけてin vivoでの効果を検討していきたい.
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