研究概要 |
乳癌や大腸癌などの腺癌でその間質細胞にCD10が発現することを我々は報告し、浸潤や転移に関与することを明らかにしている。そこで今回は食道原発の扁平上皮癌における間質細胞のCD10の発現を調べ、臨床病理学的意義を検討した。 対象は食道原発の扁平上皮癌105例で、抗CD10抗体(56C6,Novocastra, Newcastle,UK)を用いて免疫染色を行った。腫瘍細胞周囲の間質細胞のうち10%以上に染色性が得られた場合を陽性と判定し、その臨床病理学的意義を検討した。 CD10陽性の食道癌は、105例中51例(48.6%)に認められた。壁深達度ごとのCD10の発現率は、上皮内および粘膜固有層が0/8(0%)、粘膜下層が5/23(21.7%)、固有筋層が9/14(64.3%)、外膜より深層が37/60(61.7%)で、陽性例は全て浸潤癌であり、深達度が進むにつれてCD10陽性例が高頻度に認められた。さらに、CD10陽性の食道癌は、所属リンパ節転移が高頻度に認められた。また、術前の化学放射線併用療法が行われた44例では、比較的治療抵抗性を示したGrade 1の症例が29例に認められたが、このうちCD10陽性の症例は19例(65.5%)であった。治療に反応したと考えられるGrade2と3の15症例では、CD10陽性例は5例(33.3%)で、両者の間には有意な差がみられ、CD10陽性を示す扁平上皮癌は化学放射線併用療法に抵抗する傾向が認められた。 腫瘍間質におけるCD10の発現は、扁平上皮癌において腺癌と同様に浸潤や転移に関与する可能性が示された。また、化学放射線併用療法に抵抗性を示す症例の65.5%にCD10陽性例が認められたことから、術前療法を選択する際の臨床的指標のひとつとなる可能性が示唆された。
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