研究概要 |
乳癌や大腸癌などの腺癌では、CD10陽性の間質細胞が癌細胞周囲に誘導されていた。そしてCD10陽性の間質細胞を誘導する癌は、誘導しない癌に比べて予後が悪いことを報告した。しかしながら、CD10陽性の間質細胞の存在が癌細胞の浸潤や転移を促す機構については不明である。そこで、間質細胞の運動性に着目し、actin related protein 2/3 complex(Arp2/3 complex)の発現を大腸癌で調べた。Arp2/3 complexは7つのタンパク質からなる複合体で、アクチンの重合反応の基点となる物質であり、その重合反応は細胞の運動性に直接関与することが知られている。 対象は前回CD10の発現を調べた大腸腫瘍175例で、軽度の異型性を示す腺腫から進行癌が含まれている。方法はABC法による免疫染色で、anti-Arp2 monoclonal antibody(K-1,Santa Cruz, CA)と部分ペプチドを用いて作成したanti-Arp3 rabbit polyclonal antibodyを用いて行った。Arp2とArp3の染色パターンはほぼ一致し、腫瘍細胞周囲の間質細胞に染まり、その頻度は軽度から中等度の異型性を伴う腺腫では5.5%(3/55)、高度の異型性を伴うtubular adenomaでは11.8%(2/17)、粘膜内癌では53.3%(16/30)、そして浸潤癌では91.8%(67/73)であり、腫瘍のprogressionに従って陽性率の上昇が認められた。(P<0.0001)Arp2/3 complexの分布をCD10陽性の間質細胞と比較したところ、その分布はほぼ一致した。また、間質細胞がArp2/3 complexを発現する症例は腫瘍細胞においてp53が過剰発現する率が有意に高く、大腸発癌の後期に関与し、浸潤や転移に関与している可能性が示唆された。実際、浸潤癌において進達度が進むにつれてArp2/3 complexの発現頻度は有意に増加している。 以上の結果からCD10陽性の間質細胞はArp2/3 complexを発現し、細胞の運動能が亢進している可能性が示された。癌細胞の浸潤と同時、あるいは先だってCD10陽性の間質が組織内に浸潤するモデルの可能性が示された。
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