研究概要 |
葉状突起の形成は、細胞が動く際の直接の原動力となり、WAVE2との結合がArp2/3複合体の活性化をもたらしてアクチンフィラメントを速やかに重合させるという機序が最も有力である。そこで肺腺癌の浸潤,転移にArp2/3複合体、WAVE2が関与するか否かを調べるために、外科的に切除された肺腺癌115例を対象にミラー切片を作成し、その各々に抗Arp2抗体,抗WAVE2抗体を用いた免疫染色を行って共発現の有無を検討した。Arp2とWAVE2に対する反応は類似した染色パターンを示した。いずれも癌細胞の細胞質内に分布し、細胞質染色パターンは点状,顆粒状,均一状など多様であった.肺腺癌組織においてArp2およびWAVE2陽性細胞の腫瘍内の分布は多くは散在性,時には集団となって認められた。78症例において、それぞれの陽性細胞の細胞質染色パターンや陽性細胞の分布が一致し、共発現陽性群と判定した。共発現がないか、または共発現細胞が5個以下の37症例を陰性群とした。陽性群,陰性群間の予後(DFS)曲線の相違をloglank検定を用いて分析した。陽性群のDFS率は陰性群のDFS率と比較して有意に低かった(P<0.0001)。各病理病期に関して陽性群陰性群間のDFS率を分析したところIA期において陽性群は陰性群と比較して有意差を持ってDFS率が悪かった(P=0.0110)。組織型の検討では、bronchioloalveolar carcinoma(BAC)の共発現率は14.3%(3/21)と低く,BACとnon-BAC間では共発現率に有意な差が認められた(P<0.0001)。Arp2とWAVE2の共発現はリンパ節転移陽性症例に高頻度に認められた(P=0.0005)。以上の結果より、Arp2とWAVE2の共発現は、肺腺癌の浸潤および転移に関与する可能性が示唆された。
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