乳癌や大腸癌などの腺癌でその間質細胞にCD10が発現することを報告したが、食道原発の扁平上皮癌における間質細胞のCD10の発現を調べ、臨床病理学的意義を検討した。 CD10を発現する間質細胞を誘導する食道癌は、105例中51例(48.6%)に認められた。臨床病理学的特御として、深達度が進むにつれてCD10陽性例が高頻度に認められ、所属リンパ節転移が高頻度に認められた。また、術前の化学放射線併用療法が行われた44例では、化学放射線併用療法に抵抗する傾向が認められた。 腫瘍間質におけるCD10の発現は、扁平上皮癌において腺癌と同様に浸潤や転移に関与する可能性が示された。また、化学放射線併用療法に抵抗性を示す症例の65.5%にCD10陽性例が認められたことから、術前療法を選択する際の臨床的指標のひとつとなる可能性が示唆された。 CD10陽性の間質細胞の存在が癌細胞の浸潤や転移を促す機構1については不明であったため、間質細胞の運動性に着目し、actin related protein 2/3 complex(Arp2/3 complex)の発現を大腸癌で調べた。Arp2/3 complexは7つのタンパク質からなる複合体で、アクチンの重合反応の基点となる物質であり、その重合反応は細胞の運動性に直接関与することが知られている。 Arp2とArp3の染色パターンはほぼ一致し、腫瘍細胞周囲の間質細胞に染まり、その頻度は軽度から中等度の異型性を伴う腺腫では5.5%(3/55)、高度の異型性を伴うtubular adenomaでは11.8%(2/17)、粘膜内癌では53.3%(16/30)、そして浸潤癌では91.8%(67/73)であり、腫瘍のprogressionに従って陽性率の上昇が認められた。(P<0.0001)Arp2/3 complexの分布をCD10陽性の間質細胞と比較したところ、その分布はほぼ一致した。 以上の結果からCD10陽性の間質細胞はArp2/3 complexを発現し、細胞の運動能が亢進している可能性が示された。 癌細胞の浸潤と同時、あるいは先だってCD10陽性の間質が組織内に浸潤するモデルの可能性が示された。 その後の研究は、Arp2/3 complexの発現と癌細胞の運動能について研究が進められた
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