成人型早老症として知られるWerner症候群は、癌の多発も注目されており、老化と癌の関係を解明する上で興味あるモデルである。我々はこれまで、Werner症候群に発生した癌に関して、一般集団では比較的稀な6種類の腫瘍(甲状腺癌、骨の肉腫、軟部肉腫、顆粒球系腫瘍/MDS、髄膜腫、およびメラノーマ)が多いこと、一般の高齢者に多い癌(大腸癌、胃癌、前立腺癌など)は少ないことなどを解明してきた。 本研究では、Werner症候群における発がんをめぐる2つの問題:(1)WRNヘリカーゼの欠損と発がんメカニズムの関係、(2)Werner症候群における発がんリスクの推定、に取り組んでいる。 本年は、1996年に発表した腫瘍スペクトルをupdateする作業を行った。すなわち、日本人Werner症候群症例の報告を邦文、外国語あわせてすべて収集し、これまで収集してきた腫瘍ファイルを更新した。 その結果、(1)に関連して、肺では、原因と組織型・遺伝子変異との関連が比較的なので、肺の悪性腫瘍7例を収集して、解析の準備をした。 (2)に関しては、関連施設および研究協力者からの情報提供、および文献検索により、非上皮性腫瘍133個(うち悪性110個)、上皮性悪性腫瘍75個のデータを収集した。非上皮性腫瘍のスペクトルは、皮下を含む軟部肉腫が37例、メラノーマ34例、白血病/MDS23例、髄膜腫21例、骨の肉腫14例、脳腫瘍4例である。上皮性腫瘍では、甲状腺癌28例、皮膚癌10例、肝癌7例、乳癌6例、胃癌5例、肺癌5例、大腸癌1例、前立腺癌0例であった。1996年の集計と比較して、軟部肉腫の増加、およびメラノーマ以外の皮膚癌も多くなっていることが目立った。特に皮下の肉腫も入れると、皮膚に関連した悪性腫瘍は実に39例となった。内訳は、悪性では、メラノーマ23、基底細胞癌5、扁平上皮癌3、脂腺癌1、ボーエン病1、癌腫NOS1、良性(ないし境界病変)では、光線角化症1、母斑細胞性母斑1、皮下肉腫では、悪性線維性組織球腫2、急性T細胞白血病1であった。
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