癌は体細胞の遺伝子病であり、遺伝子および染色体の構造の不安定性により生じたゲノム異常の蓄積がその癌の個性を規定する。したがって、浸潤や転移あるいは薬剤耐性といった癌の悪性形質獲得の機序解明には、それに関与するゲノム異常を明らかにすることが重要である。 昨年度までにわれわれは、極めて予後不良であることが知られている肺小細胞癌において、第5番染色体短腕5p13に高頻度に遺伝子増幅を検出し、その標的のひとつがSKP2遺伝子であることを明らかにした。SKP2はSCFユビキチン・リガーゼ複合体の基質認識を担う分子であり、CDK(サイクリン依存性キナーゼ)・インヒビターであるp27を分解して細胞周期G1/S期移行を正に制御する。従って、SKP2が増幅・過剰発現することは、p27の分解を促進し、細胞周期の進行を加速させることで癌細胞の増殖に関与すると推定される。実際われわれは、アンチセンス法でSKP2の発現量を抑制すると、肺癌細胞の増殖が抑制されることを明らかにした。 今年度の研究で、(1)SKP2は、非小細胞肺癌においても高頻度に増幅・発現亢進している、(2)SKP2の発現量が高い非小細胞肺癌症例では有意にリンパ節転移が多い、(3)Matrigelを用いた浸潤アッセイにおいて、SKP2の発現をアンチセンス法により抑制すると、非小細胞肺癌細胞の浸潤能が抑制される、ことを明らかにした。よって、SKP2の増幅・発現亢進は、癌細胞の増殖のみならず、浸潤・転移にも関与する可能性が示唆された。
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