Rasファミリー低分子G蛋白Rap1の生体内での機能については解析するために、リンパ・造血系組織の主たるRap1GAPであるSPA-1の遺伝子破壊(SPA-1-/-)マウスを作製し、解析を行ってきた。これまでにこのマウスでは、活性化型Rap1の蓄積により、(1)T細胞の機能不全に基づく免疫不全状態に陥ること、(2)多能性造血幹細胞を含む未分化造血細胞の増殖亢進が起こり、その後生後1年〜1年半でほぼ全例において慢性骨髄性白血病(CML)をはじめとする多彩な白血病を発症することなどを明らかにしてきた。さらにSPA-1-/-マウスの解析を行った結果、このマウスでは加齢に伴う腹腔B1細胞数の増加、二重鎖DNAや赤血球に対する自己反応性抗体の産生などのSLEモデルマウスであるNZBマウスに酷似した自己免疫疾患状態に陥ることが新たに確認された。SPA-1-/-マウスは約80%においてCMLを発症するが、残り20%においてCD5+B220+白血病細胞の増加及び貧血を特徴とするヒトB細胞性慢性リンパ性白血病(B-CLL)に酷似した病態を発症した。SPA-1-/-マウス由来骨髄細胞より樹立したB1細胞株はIgMを分泌し、SCIDマウスに移入するとB-CLLを発症するが、レトロウイルスを用いてSPA-1を導入することでIgM産生および白血病原性は抑制され、SPA-1によるRap1活性化制御がB1細胞の分化や活性化に不可欠であることが強く示唆された。詳細な分子機序は現在解析中であるが、Rap1GTPによる転写因子OCABの発現誘導が確認され、Rap1による転写の活性化という新しい機序の関与が示唆されている。
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