研究概要 |
新規合成レチノイド(acyclic retinoid, ACR)は副作用を惹起することなくヒト肝癌治療後の再発を有為に抑制する。本研究の目的はACRの抗腫瘍作用メカニズムを分子レベルにおいて詳細に解析することである。私達はヒト癌細胞においてACRの細胞周期関連分子の発現に対する影響と核内レセプター転写活性に及ぼす効果を検討した。ACRはヒト肝癌細胞(HepG2)・頭頚部扁平上皮癌細胞(HCE7)・大腸癌細胞(HCT116)の増殖を濃度依存的に抑制した。ACRはHepG2細胞において暴露3時間後に細胞周期抑制タンパクであるp21^<CIP1>のmRNAとタンパク発現を誘導した。この誘導はp53非依存的に起きていた。ACRは暴露3時間以内にRARβのmRNAとタンパクの発現を有為に誘導した。RARE-CATリポーター遺伝子をHepG2細胞にRARα,RARβ,RARγ,RXRα発現ベクターと共に導入し、ACRを暴露させACRのこれらの遺伝子の転写活性に対する影響を解析した。ACRの存在下でRARβを導入した時CAT活性は4倍に上昇したが他の発現ベクターを導入した時は2倍以下であった。以上の結果よりACRによる癌細胞増殖抑制メカニズムにはRARβとp21^<CIP1>が非常に重要な役割を果たしていることが明らかになった。さらにACRはHCE7細胞においても肝癌細胞に対する作用と同様にcyclinD1を抑制しp21^<CIP1>を誘導した。またACRはc-Fos及びAP-1プロモータ活性を濃度依存的に抑制し、リン酸化型EGFR(pEGFR),pStat3及びpErk1/2のタンパク発現を抑制した。以上の所見はACRがヒトの様々なタイプの癌に対する治療薬あるいは予防薬として有効であることを示唆する。
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