研究概要 |
本研究の目的は新規合成レチノイド(acyclic retinoid : ACR)の抗腫瘍作用メカニズムを分子レベルで詳細に解析することである。私達はヒト肝癌細胞株(HepG2)を用い、細胞周期の調節に関連するp21^<CIP1>及びp53のmRNA発現に対するACRの作用を解析し、レチノイドの核内受容体であるRARα/β/γ及びRXRα/β/γのmRNA、タンパク及び転写活性に与えるACRの効果を解析した。さらに、頭頚部・食道癌細胞株(YCUN, YCUH, HCE7)を使いACRの細胞周期とシグナル伝達に及ぼす影響を解析し、HepG2細胞におけるACRとOSI461(sulindac誘導体)との相乗効果の有無を検討した。研究成果として以下の新しい発見があった。ACRはRARβを活性化しp21^<CIP1>の転写活性化を引き起こす。p21^<CIP1>の活性化にはp53非依存的なメカニズムが関与している。ACRはAP-1とc-Fosのプロモーター活性を抑制する。ACRはHCE7細胞においてTGFαタンパクの細胞内レベルを下げ、EGFR,Stat3,ERKタンパクのリン酸化を減少させる。ACRはヒト頭頚部・食道癌細胞株に対してもcyclinD1を抑制しp21^<CIP1>を誘導することにより増殖を著しく抑制する。さらにACRはこれらの細胞においてG1 arrestを引き起こしapoptosisを誘導した。これらの研究によりACRの細胞周期に関する可能な標的分子が明らかになった。これらの情報は今後の効果的な癌の予防や治療のための新薬開発の一助となろう。また、ACRはヒト肝癌細胞株においてOSI461との併用により癌細胞増殖抑制に関して相乗効果を示し、そのメカニズムとしてp21^<CIP1>とRARβの誘導が重要であることが明らかになった。従って、ACRとOSI461との併用は肝癌や他の癌の予防や治療の有効なレジメンとなる可能性がある。
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