研究概要 |
乳癌および膵臓癌を含むいくつかの固形癌におけるEtsファミリー遺伝子の発現を検索した結果、Ets-1およびFli-1の発現が高いものはMMP-1,MMP-3,uPAなどの浸潤に関連する遺伝子の発現が高いことが明らかとなった。Ets-1の発現とMMPsあるいはuPA発現の相関については多くの国内外のグループにより指摘されているが、固形癌でのFli-1の機能は良く分かっていない。そこで、Ets-1,Fli-1の発現が低く、悪性度が低いヒト乳癌細胞株MCF-7にFli-1の発現ベクターを導入し、Fli-1蛋白質を高発現しているクローンを3系樹立し、その生物学的特性ならびに遺伝子発現の変化について検索した。Fli-1導入MCF-7細胞3クローンは親細胞および空ベクターを導入した2クローンに比べ、10%血清あるいは1%血清下での増殖速度・細胞飽和密度、軟寒天培地内増殖・ヌードマウス生体内増殖などに大きな変化はなかったが、MMP-1の発現上昇の他、血清を除去した状態でのアポトーシスの誘導が抑制されていることが明らかとなった。また、マイクロアレイ解析では両者においていくつかの遺伝子発現が異なっているという結果を得ているが、現在、異なるロットのmRNAを用いその再現性について確認中である。今後の1年間で、Fli-1導入MCF-7細胞クローンの低血清以外の低酸素状態や抗癌剤によるアポトーシスについて検索するとともにマイクロアレイ解析からこの細胞のアポトーシスに関連すると想定される遺伝子の全長cDNAをMCF-7細胞に導入して、同遺伝子のアポトーシスの抑制への関与を証明する予定である。また、膵臓癌についてもsiRNAの発現ベクターの導入実験などでetsファミリー遺伝子の癌の悪性度へ及ぼす影響について検討する予定である。
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