研究概要 |
家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis, FAP)のモデル動物であるApcヘテロノックアウトマウスの腸には多数のポリープが発生する。昨年度の研究結果から、Apcノックアウトマウスでは、加齢とともに高トリグリセリド血症を発症すること、小腸及び肝臓でLPLの発現レベルが野生型マウスに比べて顕著に低いことがわかった。また、PPARαのリガンドであるクロフィブレート系抗高脂血症剤ベザフィブレートやPPARγのリガンドで糖尿病薬であるチアゾリジンジオン誘導体ピオグリタゾン投与により、血清トリグリセリド値の低下、腸ポリープ形成の減少、及び、肝臓でのLPLの発現上昇が見られた。しかし、PPARのリガンドは腸ポリープの形成を直接抑制する可能性があり、Apcノックアウトマウスにおける高脂血症と腸ポリープ形成の関係は明らかではない。そこで、本年度は、LPL活性化剤の投与による血中脂質レベル及び腸ポリープ発生への影響を検討した。 Apc遺伝子ノックアウトマウスであるMinマウスに、7週齢から20週齢まで13週間、LPL活性化剤NO-1886を400ppm及び800ppmの用量で混餌投与した結果、LPLmRNAの発現上昇が認められるとともに、血清トリグリセリド値は非投与群の39%及び31%に低下し、VLDLコレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール値も野生型マウスのレベルに近い値まで改善された。さらに、腸ポリープの発生数も、非投与群の48%及び42%に減少した。これらの結果から、MinマウスにおいてLPLの活性が低いことが高脂血症の発症及び腸ポリープの発生の両方に関与していることが強く示唆された。また、LPL活性化剤は大腸がんの化学予防剤として有用である可能性が考えられる。
|