本研究を実行するために米国より移入したRip Tagマウスの腫瘍形成が著しく低下したことにより、目的の検体を採取することができなかった。以前よりRip Tagマウスの腫瘍形成はバックグラウンドに依存することが知られている。そこでC57B1/6Nマウス、およびDBAマウスとの戻し交配を4代行ったところ、腫瘍形成は有意には改善しなかた。移入元でもほぼ同様の現象が起こっているため、マウスの経代中に腫瘍形成を抑制する変化が起こった可能性があり、トランスジェニックマウスの再作成を検討している。 一方、保存検体の解析により、残存腫瘍の中に充実性で壊死部分を持たず、乏しいながら腫瘍内に血管が存在する腫瘍の存在が明らかになった。低酸素マーカー(pimonidazole)で染色を行ったところ、野生型の腫瘍には存在しない広範囲な低酸素領域を持つことが判明した。つまり、血管新生阻害によって腫瘍内に低酸素領域が誘導されることを明らかにした。これら腫瘍では明らかなアポトーシスの上昇は見られず、腫瘍細胞は低酸素下で適応、生存している(論文準備中)。この発見は血管新生阻害薬による治療に腫瘍細胞が適反しうることを示唆しており、今後の臨床反用での問題点になると考えられる。そこで腫瘍細胞の低酸素耐性機構について検討を行った。 我々は低酸素耐性株のクローニングあるいは培養条件を選択することによって、いくつかの癌細胞株を分裂せず死にも至らない状態のまま低酸素下で長期間維持できることを見出した。低酸素下の癌細胞ではmTORシグナルが抑制されることが知られているが、その機構及び意義は未だ不明であった。我々は低酸素下の癌細胞でmTORの下流シグナル経路が抑制されることが、低酸素下における癌細胞の生存戦略であることを明らかにした。
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