研究概要 |
マンソン裂頭条虫擬充尾虫が産生する分泌・排泄物質(ES物質)は、マウスマクロファージのERK1/2やp38MAPKのリン酸化を抑制してTNF-α,IL-1βの遺伝子発現を抑制することを明らかにした。そこで骨髄細胞から破骨細胞への分化にこれらのMAPK経路が重要な役割を持っているので、破骨細胞の分化、成熟に対するES物質影響についてin vitroで検討し、下記の結果を得た。 1.骨髄細胞をM-CSFとRANKLにて供刺激すると酒石酸抵抗性フォスファターゼ(TRAP)陽性の多核巨細胞の破骨細胞へと分化するが、M-CSFとRANKLの添加と同時にES物質を添加すると骨髄細胞の融合は完全に阻害され、TRAP陽性細胞の減少を認めた。しかし、細胞の分裂増殖像は観察された。 2.M-CSFの添加のみで培養した骨髄細胞にES物質添加してもマクロファージ様に分化したのでES物質は細胞毒性を発揮しているのではなく破骨細胞への分化を阻害していることが示唆された。 3.破骨細胞に特異的に発現しているカルシトニン受容体(CTR)とTRAPの遺伝子発現に対するES物質の影響をRT-PCRにて解析したところ、MAPK系の阻害剤(PD98059,SB203580)はCTRを完全に抑制したが、ES物質の抑制は軽度であった。しかし、RANKの発現に対しては影響を及ぼさなかった。 4.さらに、ノーザンブロット分析にてCTRとTRAPの遺伝子発現に対するES物質の影響を解析したところCTRは54.9%,TRAPは85.7%抑制されていた。 5.骨髄細胞を培養3日目から6日目までES物質を添加して培養し、その後ES物質を除去した後M-CSF,RANKLを添加して培養を継続すると細胞増殖は活発化することが確認された。 以上の結果から、マンソン裂頭条虫擬充尾虫のES物質は骨髄細胞の破骨細胞への分化をMAPK経路の阻害だけではなく他の経路にも影響して抑制していることが示唆された。よって、この作用を有する分子の精製、実験的リウマチ動物におけるvivo実験を企画し、ES物質の破骨細胞抑制作用のさらなる研究を発展させる必要がある。
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