金属酵素阻害剤は蛇毒成分のうち、局所出血を惹起する出血毒、全身性の凝固障害を引き起こすプロコアギュラントに対して強い抑制効果を持つ事が明らかとなった。さらに、ラットなどに存在する血中のムリノグロブリンは動物実験においても、クサリヘビ科であれば毒蛇の種類を問わず、局所出血、全身性の凝固障害に対して有効であった。さらに、実際の治療モデルとして、咬傷後にプロテアーゼ阻害剤を投与した場合の効果についてラットを用いた動物実験により検討した。阻害剤としてはキレート剤であるCa-EDTA、血中プロテアーゼ阻害剤であるムリノグロブリン、合成金属酵素阻害剤であるIlomastatを用いた。その結果、咬傷直後(2分以内)に局所投与が可能であるならば、毒蛇の種類を問わず、局所出血等に有効であるが、時間が経過すると有効性が著しく低下するという結果がえられた。阻害剤としては、合成金属酵素阻害剤とキレート剤の併用が最も優れていた。また、蛇咬傷による全身性の障害に対するプロテアーゼ阻害剤の効果もあわせて検討したが、この場合は更に早期に投与する必要があることが明らかとなった。また、この実験結果より、局所に注入された蛇毒中のプロコアギュラントは、予想されたより早期に全身循環中に進入することが明らかになり、その経路としてはリンパ行性ではなく、血管よりの進入であることも確かめられた。結論として、プロテアーゼ阻害剤の局所投与による治療効果は限定的であるが、さらに特異性の高い阻害剤を開発することにより、治療効果の改善が見込まれると考えられた。また、自然物からの阻害剤の検索により、海水性のウミウシに強い阻害活性が見つかり、この阻害蛋白質の同定と精製が進行中である。
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