研究概要 |
本研究の主目的はMetalloproteinaseの阻害物質を使用した、蛇毒による局所障害を抑制するViperide科蛇咬傷に対する新しい治療法の開発である。局所での早期における蛇毒の無毒化はその後に続く全身性の障害の発生をも抑制すると期待される。ラットなどの血中に存在するmurinoglobulinは広域阻害スペクトラムを持つプロテアーゼ阻害剤である。この阻害物質をラットより大量精製する方法を開発し、Viperidae科5属5種の蛇毒活性に与える影響を調べたところ、使用したすべての種において蛇毒の局所出血活性、腫脹惹起活性を殆ど完全に抑制することが明らかになった。また、合成の金属酵素阻害剤であるIlomastatおよびCaEDTAについても、Viperidae科の毒蛇のなかで最も活性が強く、murinoglobulinによる阻害を受けにくかったEchis shochurekiの毒を用いて検討したところ、蛇毒の血液凝固活性、局所出血活性を充分に抑制することが明らかとなった。そこで、実際の救急治療に使用可能かどうか、Echis sochurekiの毒をラットに皮下注した後、1分から10分の間隔を置いて、Metalloproteinaseの合成阻害剤である0.3M CaEDTAあるいは、Ilomastat 50μM, CaEDTA 0.3Mの混合液を同部位に皮下注し、その効果を見た。その結果、蛇毒による局所症状(出血、壊死)および全身症状(血液凝固障害)に対しても充分な抑制効果は得られなかった。全身症状においても、有効であったのは治療薬注入までの許容時間が1分と極めて短かった。このことは、蛇毒が予想以上に早く循環系に進入することを示していると考えられ、局所において蛇毒を無毒化するうえで大きな制約となると思われる。今後、蛇毒の循環系への移行を遅延させる方法および、全身の循環系に流入した毒素をも中和させる方法等の工夫が必要と結論された。
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