研究概要 |
目的 平成15〜16年度にかけて、リーシュマニア原虫の全cytochrome b(cyt b)遺伝子の塩基配列を決定し、同遺伝子の系統樹からリーシュマニア原虫種の同定、分類が可能であることを報告した。平成17年度はパキスタン共和国在住のリーシュマニア症患者皮膚病変組織検体内に感染したリーシュマニア原虫cyt b遺伝子を解析し、パキスタン共和国における原虫の種類とその頻度や地理的分布、臨床症状との相関について検索することを目的とした。 方法 1)パキスタンイスラム共和国において、2003年1月から2004年12月までの約3年間、バロチスタン州のクエッタ(標高1700-1800m)周辺の部落とシンド州のラルカナおよびサカッル(標高1100m)周辺に在住し、皮膚病変を有する皮膚リーシュマニア症を診察した。診察した患者総数は214例(男性:119例、女性:95例)であった。その214例のうち皮膚リーシュマニア症と確定診断した60例についての皮膚症状(dry type, wet type, dry and wet type)と原因原虫および患者の分布を解析した。その60例の内訳は、年齢が10ヶ月〜50才(平均年齢20.7才)、性別は男40例、女20例であった。さらに従来の教科書の記載に従い、臨床症状をdry typeとwet type、そして両者が混在する症例をdry and wet typeと区別した。 2)リーシュマニア原虫種の同定方法は、皮膚生検組織および分離培養原虫株からgenomic DNAを抽出し、cytochrome b遺伝子のconsensus primerでPCRを行い、そのPCR産物を精製した。その後にdirect sequencingを行い、その塩基配列を決定し、NCBI/BLAST解析を行って原虫種を同定した。 結果と結論 2003年1月〜2004年12月(約3年間)までに60例のCL患者のリーシュマニア原虫のcytochrome b遺伝子を調べた結果では、dry type 16例中6例(37.5%)がL.(L.)tropicaによる原因原虫であり、残り10例(62.5%)は教科書の記載とは異なりL.(L.)majorであった。さらに、wet typeと診断された34例中27例(79.4%)の原因原虫はL.(L.)majorであったが、6例(17.6%)はL.(L.)tropicaであった。なおDry typeとwet typeが混在する症例もあり、dry and wet typeと診断された10例中1例(10%)はL.(L.)tropica、9例(90%)がL.(L.)majorによる原因原虫であった。一方、原因原虫と患者在住地の地理的関係をみると、標高1,700mのクエッタ周辺の山岳地帯に在住する患者は13例中12例(92%)がL.(L.)tropicaによるものでありL.(L.)majorが検出された1例は平地のシビで隅患した患者であった)、インダス川流域のラルカナやサッカル周辺の標高100mの砂漠地帯では47例中45例(96%)がL.(L.)majorによる感染例であった。つまり教科書的な臨床所見(dry or wet type)から原因原虫を推定するのは不正確と考えられ、地理的な相違による因子が大きいのではないかと考えている。
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