研究概要 |
クロロキン耐性熱帯熱マラリア原虫の蔓延はマラリア対策上大きな問題となっているが、クロロキンは安全性および経済性などの点から今なお重要な抗マラリア薬である.1999年Wellemsらは原虫第7染色体上にpfcrt遺伝子を発見した。76位リジンからトレオニンへの置換(K76T)は、培養原虫だけでなく、流行地におけるフィールドサンプルにおいても、クロロキン耐性能獲得とほぼ完全に相関していることが報告されている.アフリカ東部のマラウイ国は、1980年代後半からのクロロキン耐性原虫の著明な増加(80%)により1993年クロロキン使用を全面的に中止した世界で初めての国である。我々は、クロロキン薬剤圧の消失が薬理効果あるいは当地における熱帯熱マラリア原虫集団にあたえた影響を検討するため、サリマ地区において1998および2000年クロロキン薬剤耐性試験を実施、耐性原虫およびK76T変異率(9%)の有意な減少を明らかにした(Mita et al. Am J Trop Med Hyg 2003).本年度我々は、当地においてK76T変異原虫の減少を起こしたメカニズムとして、二つの作業仮説(A, B)を立て、これらを検証した. (A)「pfcrt76位におけるback mutation」によるK76T変異原虫の減少 (B)「K76野生型原虫の相対的増加」によるK76T変異原虫の減少 pfcrt遺伝子は9部位のSNPs siteを持つ.我々は60例(1998年)および137例(2000年)の熱帯熱マラリア原虫陽性患者から原虫DNAを抽出、long and allele specific PCR, direct sequencing, RFLPを組合せ、アフリカに多いmixed genotypeにおいてpfcrtのalleleを決定する方法を開発、同サンプルのpfcrt allele解析を行った.95%がCVMNK-A-Q-N-I-R(野生型)、変異型はCVIET-S-E-N-I-Iのタイプ(5%)のみ見られた.back mutationの直接的な証明となるCVIEK-S-E-N-I-I(76位のみmutationなし)を持った原虫は見られなかった.一方、野生型alleleを持った原虫頻度は1998年(n%)から2000年(2%)へと、わずか2年で有意に(P=0.02)減少しており、K76T変異率の減少は、野生型alleleを持った原虫の相対的増加によることが明らかになった(Mita et al. Mol Biochem Parasitol 2004 in print)。 マラウイにおけるクロロキン感受性の回復は、フィールドにおける強力なクロロキン圧下で選択された耐性原虫が、クロロキン圧の消失により原虫集団から淘汰されたためと考えられる。耐性能を獲得した原虫は、その一方でなんらかのcostを負うことになったのではないか。クロロキンという選択因子のない環境下では、そのcostにより、耐性原虫の相対的減少をきたした可能性が高い。
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