研究概要 |
熱帯熱マラリア原虫のゲノム多様性に関し、つぎのような研究成果が得られた。 熱帯熱マラリア原虫の遺伝的可変性は宿主寄生適機構の解明、及び、有効なマラリア対策の開発と密接に関わり、重要な研究課題である。南西太平洋バヌアツでは異なる遺伝子型の熱帯熱マラリア原虫の重複感染がまれで、島嶼間の人々の移動も少ない。この特異なマラリア疫学的状況は熱帯熱マラリア原虫の遺伝的可変性の解析に適する。我々は最近、バヌアツの原虫集団における表面抗原の遺伝的可変性を調べ、SNPs(単塩基多型)は短時間に発生するものではないが、反復配列の多型は急速に進化することを示した。本研究では、抗原座位とは異なり正の淘汰を受けないと思われるマイクロサテライト座位における単純反復配列の可変性、及び、複数座位の組み合わせで表現される遺伝子型の可変性について検討した。抗原遺伝子としてはmsp1,msp2,cspの3座位、マイクロサテライトはTA40,TA101,serca intronを選び、7島嶼からの234株についてシーケンス及び集団遺伝学的解析を行った。その結果、(1)マイクロサテライトのserca intronでは島嶼固有に多型が発生している、(2)多くの島嶼において固有の遺伝子型が存在する、ことが明らかになった。前者からは、反復配列多型の進化が抗原座位において特異的に速いものではないこと、後者からは、有性生殖期における染色体間の混合わせがマラリア原虫のゲノム多様性の発生、及び、多型抗原遺伝子の存続に重要な役割を果たしていることを示唆する。
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