研究概要 |
嫌気性寄生性原虫赤痢アメーバは微生物や宿主細胞を貧食する。貧食は赤痢アメーバにとって分裂・増殖と宿主への寄生に不可欠な生物機能である。我々は赤痢アメーバが赤血球などを貧食する際に、貧食胞(ファゴソーム)とは別に前貧食胞(PPV)が形成されることを発見した。PPVの形成は他種生物に例がなく、本原虫に特異的であった。PPVの形成とファゴソームへの加水分解酵素の輸送にはRab5,Rab7Aの2種類のRabが関与していた。我々はRab7Aの機能を理解することを目的としてRab7Aに結合し、その機能を調節すると予想されるタンパク質の同定と機能解析を行った。グルタチオンS転移酵素融合タンパク質を用いてRab7Aに結合するタンパク質を原虫の粗抽出液から分離・同定したところ、酵母・哺乳動物で加水分解酵素の輸送体のエンドソームからゴルジ体への逆行輸送に関与するレトロマーと呼ばれる複合体の3種類のコンポーネントのホモログ(Vps26,Vps35,Vps29)であることが明らかになった。それぞれの組換えタンパク質、合成ペプチドに対するポリクローナル抗体を作成するとともに、エピトープ標識したタンパク質を発現する赤痢アメーバ形質転換体を作成したところ、貧食過程でこれらの分子がRab7Aと同様の挙動を示すことが明らかとなった。更に、準備的結果から、Vps26のカルボキシ末端部の陰性荷電部位を除去した変異体を導入したところ、細胞内の加水分解酵素の誤った分泌が見られるようになった。以上の結果は、レトロマー様複合体はRab7Aと結合することで、赤痢アメーバ加水分解酵素のファゴソームへの輸送に機能していることを示唆している。Rab7Aとレトロマー様複合体との結合は他種生物に例がなく、今後の生理機能の解明に期待がもたれる。
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