研究概要 |
ビブリオ・バルニフィカス感染症を制御するためには,この病原ビブリオの自然界での分布状況を正確に把握しておく必要がある。今年度は,この目的の達成において有用であると思われる「ビブリオ・バルニフィカスを特異的に検出する手段」を開発した。 1.ビブリオ・バルニフィカスは,その全ての菌株が赤血球等の細胞を破壊する細胞溶解毒素を分泌している。しかしながら,ヒトにのみ病原性を示す菌株(L-180株)の毒素は,ヒトとウナギに病原性を示す菌株(CDC B-3547株)のそれとは,生化学的性状等において異なっていた。この性状の違いを分子レベルで解明するため,各々の毒素遺伝子の塩基配列を決定し,推定される毒素蛋白質の一次構造を比較した。その結果,毒素蛋白質を構成する471個のアミノ酸残基のうち,C末側の3残基において相違が認められ,これらのアミノ酸の置換が性状の違いを生じさせていると推察された。 2.両菌株の細胞溶解毒素遺伝子について全塩基配列を解析したところ,不一致率の高い領域が存在することが明らかとなった。そこで,この領域をプライマーセットとしたPCR反応を行い、当該毒素遺伝子の種類に基づいた型別を行った。ヒトの臨床分離株(14株),ウナギの臨床分離株(15株),および環境分離株(14株)について,保有する細胞溶解毒素遺伝子の種類を調べた。その結果、(1)ヒトにのみ病原性を示す菌株は,その殆どがL-180株と同じ種類の毒素遺伝子を保有すること,(2)ヒトとウナギに病原性を示す菌株は,その全てがCDC B-3547株と同じ種類の毒素遺伝子を保有すること,(3)環境分離株は,その多くが後者の毒素遺伝子を保有することが明らかとなった。 今年度の研究により,ビブリオ・バルニフィカスが細胞溶解毒素遺伝子の種類により2つに型別されること,しかも各々の型の菌株が異なる病原性を示すことが明らかとなった。したがって,今回開発した型別方法を様々な環境試料に対して適用すれば,自然界における本菌の分布状況の把握が可能となり,本菌感染症の制御に関する重要な疫学上の情報が得られると期待される。
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