研究概要 |
当初は金属プロテアーゼに関する研究,ヘム獲得系に関する研究を行う予定であったが,昨年度十分な検討が行えなかったクォーラム・センシング(QS)調節系に関する研究を集中的に遂行した。そして,次に述べる研究成果を得た。 1.被験菌を最適生育温度である25℃で培養し,対数増殖期中期と後期,および定常期前期に菌体を回収した。そして,毒素遺伝子(vvh, vvp)の発現量,つまりmRNA量をRT-PCR法により定量した。vvh mRNAは対数増殖期中期には多量に存在していたが,菌の増殖にともない次第に減少し,定常期前期にはその量が半減した。これに対して,vvpは定常期前期において発現量が2倍に増加した。一方,37℃で培養した場合には,vvhは増殖の全時期において多量に発現し,他方のvvpは対数増殖期後期以降に発現量が増加した。つまり,37℃では明確な菌密度に依存した毒素遺伝子の発現調節が観られなかった。 2.被験菌を25℃および37℃で培養し,定常期前期に培養上清を回収した。そして,分泌されたフェロモン様物質の活性をレポーター株に対する生物発光の誘導活性により測定した。25℃で培養した上清では5,870RLUの発光が誘導されたが,37℃の培養上清ではわずか580RLUの発光しか誘導されなかった。よって,フェロモン様物質が37℃では少量しか産生されないことが示された。 以上より,食品を介して経口感染したビブリオ・バルニフィカスは,QS調節の支配を受けることなく細胞破壊毒素を産生し,腸管および血管の細胞層を破壊して体内へ侵入するが,温度が少し低い問質組織まで侵入すると,QS調節の支配を受けて金属プロテアーゼを産生し,血泡や紫斑などの皮膚障害を形成すると考えられる。よって,腸管内においてQS調節を活発にさせれば,本菌敗血症の制御が可能になると期待される。
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