研究概要 |
ビブリオ・ブルニフィカス敗血症に対する適切な制御方策を確立するためには,毒素をはじめとする毒性因子の産生調節の仕組みを分子レベルにおいて解明しなければならない。よって本年度は毒性因子の産生を一括して調節するクォーラム・センシング(QS)調節系について,遺伝子と蛋白質の両面から研究した。また,ヘム獲得系を逆利用した新規抗菌薬開発に関する基礎的な研究についても進展させた。 1.QS調節系に関する研究 本菌はフェロモン様分子の介在する遺伝子発現調節系であるQS調節系を備えている。そして,この調節系のオン・オフのスイッチを切り替えることによって,多種類の毒性因子の産生を転写段階で自己調節している。本年度はQS調節系の全体像を明らかにするため,この調節系の機能を人為的に破壊した変異株を作成し,変異株のプロテオームを野生株のものと比較解析した。その結果,QS調節系の支配を受ける新たな細菌蛋白質,つまり新現の毒性因子候補を複数個見つけだすことができた。 2.ヘム獲得系を逆利用した新規抗菌薬の開発に関する研究 本菌は細胞表面に存在する受容体蛋白質を介してヘム(鉄-ポルフィリン)を細胞内へ能動的に輸送し,鉄源として利用している。本年度はヘム受容体蛋白質について,基質認識の特異性等を検討した。その結果,ヘムにオリゴペプチドを結合させ,分子サイズを大きくし,かつ親水性を高めた場合でも細菌細胞内へ輸送されること等,受容体蛋自質の基質認識性が低いことを示す知見が得られた。したがって,この基質認識の曖昧性を上手く逆利用すれば,新たな作用点を有する新規抗菌薬の開発が可能になると考えられる。
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