研究概要 |
本研究はビブリオ・バルニフィカス敗血症の制御を目指したものであるが,以下に述べるような研究成果が得られ,有効な新規制御方策の確立へ向けた礎を築くことが出来た。 まず,本菌敗血症の特徴である浮腫性の皮膚障害に関して検討した。この皮膚障害には金属プロテアーゼ(VVP)が関与しているが,VVPはN末側の触媒ドメイインを介して肥満細胞の受容体に結合し,ヒスタミンの開口分泌応答を惹起させた。またVVPは,血液凝固カスケードの第XII因子および血漿プレカリクレインを限定分化して活性型に変換させ,浮腫形成因子であるとともに発痛因子でもあるブラジキニンをキニノーゲンから遊離させた。 本研究の特筆すべき研究成果の一つは,VVPの産生調節の仕組みを遺伝子レベルで解明したことである。つまり,ビブリオ・バルニフィカスがフェロモン様の調節因子を分泌しており,この因子の蓄積が引き金となって,グローバルな遺伝子発現調節系が機能しはじめること,その結果,転写レベルにおいて,VVPをはじめとする数多くの毒性因子の産生が開始されることが明らかとなった。 さらにVVPと並ぶ重要な毒性因子である細胞溶解毒素(VVH)に関しても多くの新規知見が得られた。すなわち,主としてウナギに病原性を示す低病原性株のVVHが,ヒトにのみ病原性を示す高病原性株のものとは生理的条件下での安定性などの諸性状において異なること,この性状の違いが毒素分子のC末側の3アミノ酸残基の変化に基づくことが示された。さらには,高病原性株の毒素遺伝子が共通の型(1型)であることも明らかとなり,この遺伝子に基づいた高病原性株の簡便なスクリーニングが可能であると考えられた。
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