研究概要 |
腸管系起炎菌である毒素原性大腸菌および腸炎ビブリオの感染予防(ワクチン)には,腸管上皮への菌の定着を阻止する分泌型IgAと毒素に対する中和抗体の産生を誘導することが重要である。そこで,各病原体の病原性発現に重要な「定着因子」と「毒素」をワクチンのターゲットとし,それぞれのワクチン抗原の大量精製法を確立後,実験動物(マウス)の免疫応答を調べた。なお,粘膜アジュバントには組換えコレラ毒素Bサブユニット(rCTB)を使用した。 1.ワクチン抗原の精製 毒素原性大腸菌(ETEC)が産生する線毛性定着因子(CFA/IおよびCFA/III)を既報に準じて精製した。CFA/IとCFA/IIIのアドヘシン様タンパク質(CfaEとCofJ)ならびに腸炎ビブリオの(変異)耐熱性溶血毒の大量発現系をHis・Tag融合ベクター(pQE-30Xa)を利用して開発し,現在,それらを精製している。 2.実験動物(マウス)の免疫応答 BALB/cマウスにETECの線毛性定着因子(CFA/IまたはCFA/III)を経鼻投与すると,rCTBの有無にかかわらす全身系免疫応答(血清IgGおよびIgA)が誘導された。血清IgGサブクラスは,IgG1,IgG2a, IgG2b抗体価がほぼ同程度上昇したことから,Th1とTh2の両免疫系をバランスよく惹起したことが考えられた。粘膜系免疫応答(分泌型IgA)は,rCTBの有無にかかわらず唾液,鼻腔,肺,膣,小腸,糞便で認められた。また,ETEC菌体凝集反応が小腸洗浄液に認められた。以上の結果より,粘膜アジュバント(rCTB)非存在下でも全身と粘膜系免疫応答が誘導されたことから,線毛性定着因子は鼻粘膜上皮より取り込まれやすい性質があると考えられる。経鼻投与により腸管において免疫(IgA)応答がみられたことは,ETEC感染症の予防に「線毛ワクチン」が「経鼻投与法」によって利用できることを示唆している。
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