研究概要 |
敗血症性ショックのメカニズム解析ならびに治療薬開発には,プライミング処置マウスにエンドトキシンを急速に静脈内投与したモデルが汎用されている.これらのモデルを用いることで敗血症ショックの病態がかなり明らかになってきたが,その作用は一過性かつ急劇である点に臨床との隔たりがある.そこで我々はより臨床状態に近い内因性敗血症モデルの開発を目指し,βグルカン-インドメタシン併用処理モデルを開発し,様々な角度から解析を進めてきた.本研究はショック誘発に最も関連すると思われる高サイトカイン血症とそれに伴う肝不全の原因を追求し,制御法の開発を目的としている.本年度得られた研究実績の概要を以下に示す. 肝臓を摘出・薄切後,HE染色を行い比較検討したところ,敗血症誘発マウスにおいて非実質細胞の割合が上昇し,肝臓に病的変化の現れていることを明らかにした.また,各臓器への菌の播種を比較したところ,肝臓のみならず,肺,心臓,脾臓など多臓器から細菌が検出された.これらは消化管バリア能の低下により腹腔内からトランスロケイションしたものと推察される.抗菌薬の併用投与によって延命効果が認められたことからも,腸内菌叢の臓器への播種が示唆された. 次に敗血症ショックの病態と密接に関る血中サイトカイン濃度を,近年開発されたビーズ法を用いて網羅的に分析したところ,敗血症誘発マウスにおいて過剰なサイトカイン産生(TNF-α,MCP-1,IL-6)が認められた. これらの結果をふまえ次年度には,ビーズ法を用いて経時的に多種類のサイトカイン産生を分析すること,マウス系統間のサイトカイン産生レベル,臓器中への菌の播種を比較すること,免疫調節作用を示す薬剤を併用投与してショック病態がどのように修飾されるかを比較することを計画している.本モデルの解析を通じて敗血症ショックの本質と治療法の開発に迫れるものと考える.
|