ウエルシュ菌β毒素がHL-60細胞にの細胞に対する作用を明らかにするため、β毒素による培養細胞からのサイトカイン遊離作用を検討した。本毒素をHL-60細胞に作用させると、TNFαやIL-1βの遊離は約1時間後から認められ、4時間後にピークとなった。さらに、毒素によるHL-60細胞からの種々のサイトカインのmRNAの発現量を測定すると、TNFαやIL-1βのmRNA量の発現増加が認められた。これらの結果から、β毒素は、HL-60細胞に作用してmRNAの発現によりサイトカインの遊離を促進することが判明した。次に本毒素の他のリンパ球系細胞に対する作用としてヒト組織球性リンパ腫細胞U937、急性単球性白血病細胞THP-1、T細胞様の性質を示すMOLT-4、B細胞様の性質を示すBALL-1について検討した。感受性の違いは認められるが、いずれの細胞も本毒素により膨化をひきおこし、さらに、毒素感受性に依存して細胞膜ラフトにβ毒素オリゴマーのバンドが認められた。一方、非リンパ球系細胞では、いかなる細胞毒性もマウスにおいて認められず、オリゴマーの形成も認められなかった。従って、β毒素は、免疫系の細胞に作用すると推察される。次に、in vivoにおけるβ毒素の作用を検討するため、マウスにヘルパーT細胞に作用してサイトカインの遊離を抑制するタクロリムス(2.5mg/kg)を2日間i.p.投与後、β毒素を投与して致死活性を調べると、未処理群と比較して、本毒素による致死時間が有意に遅延された。さらに、β毒素投与後のマウス血中のTNFα量を測定すると、TNFαは、毒素投与後約1時間でピークとなり、さらに、この遊離作用は、タクロリムスの前投与で有意に阻害された。すなわち、本毒素は、免疫系細胞に作用し、TNFαなどのサイトカインの遊離を促進し、致死を誘導すると推察される。以上からβ毒素は、免疫系細胞膜上のラフトに結合後、7量体のオリゴマーを形成し、種々の炎症性サイトカインの遊離を促進させ、致死活性を惹起することが明らかとなった。
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