ジフテリア毒素レセプター(DTR)高発現細胞をリゾホスファチジン酸(LPA)で刺激した時、レセプターの切断が観察される。そのシグナル伝達経路に活性酸素種が関与するのかどうかを明らかにすることは、ADAM12の活性化機構の解明につながる。活性酸素種の抑制試薬として知られるN-アセチル-L-システイン(NAC)を細胞に添加した後、LPA刺激を行なった。その結果、DTRの切断は阻害された。さらに、他の活性酸素種の抑制試薬であるアスコルビン酸、アルファートコフェロールを試した。しかし、この2剤はLPAによるDTRの切断を阻害しなかった。そこで、DTR高発現細胞をLPA刺激した時の活性酸素種の発生の抑制効果を調べた。NAC、アスコルビン酸、アルファートコフェロールはともにその発生を抑制した。これらの結果から、LPA刺激によるADAM12を介したDTRの切断には、活性酸素種は関与していないことが示唆された。NACとアスコルビン酸、アルファートコフェロールとを比べると、NACだけがチオール基を有する。このチオール基が切断の阻害に重要な役割を担っているかどうか、NACを酸化剤で酸化した後、阻害効果を調べた。その結果、阻害効果はなくなった。したがって、NACのLPAによるDTR切断の阻害には、チオール基が関わっていることが示唆された。ADAM12はメタロプロテアーゼであり、活性中心に亜鉛イオンを有し、不活性型はシステインスイッチによりその活性中心がマスクされている。そこで、NACの阻害効果がADAM12の活性化を阻害しているのかどうかを調べた。NACはメタロプロテアーゼの活性化剤APMAによるDTRの切断をも阻害した。これらのことからADAM12はチオール基により、制御されうることが明らかになった。
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