麻疹ウイルスはC蛋白質とV蛋白質を持っているが、増殖には必ずしも必要でないことからアクセサリー蛋白質と考えられている。我々は、麻疹ウイルスのC蛋白質あるいはV蛋白質を恒常的に発現するHeLa細胞(HeLa-C細胞、HeLa-V細胞)を樹立し、C蛋白質とV蛋白質の機能を解析した。その結果、麻疹ウイルスのV蛋白質がインターフェロン(IFN)のシグナル伝達系を阻害することを見出した。この阻害効果はIFN-αとIFN-βのI型IFNに特異的で、II型IFNであるIFN-γ添加時には観察されなかった。また、C蛋白質恒常発現細胞においてIFNのシグナル伝達系阻害は観察されなかった。 インターフェロンのシグナル伝達に関わる主要な蛋白質であるSTAT-1とSTAT-2について調べたところ、親株のHeLa細胞ではIFN-β添加によりSTAT-1の701番目のチロシンリン酸化と727番目のセリンリン酸化、STAT-2の690番目のチロシンリン酸化が観察されたが、HeLa-V細胞ではこれらのリン酸化がほぼ完壁に押さえられていた。また、STAT-1、STAT-2の分解は観察されなかった。STAT-1、STAT-2のリン酸化阻害がHeLa-V細胞におけるIFNのシグナル伝達系阻害の原因であると考えられる。 麻疹ウイルスのV蛋白質が、どのような機構でSTAT-1とSTAT-2のリン酸化を阻害しているのか、現在のところ全く不明である。麻疹ウイルスV蛋白質と相互作用する宿主蛋白質を同定することが当面の課題である。IFNはウイルス感染に対する宿主の重要な防御機構のひとつと考えられる。リバースジェネティクスの手法を用いて作製したV蛋白質を発現しない麻疹ウイルスを用い、麻疹ウイルス感染時における抗IFN機構の役割を解析することにより、麻疹ウイルスの病原性やトロピズムの解析を進めていきたい。
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