ATLの発症過程にはウイルス蛋白Taxが重要な役割を果たしている。Taxはウイルスと感染細胞の増殖を促進する一方で、CTLの標的にもなっていることから、ATL発症機序の理解には、Taxによる癌化機構と宿主側の抗Tax免疫応答にいて対照的に研究する必要がある。本研究では、Taxを標的にしたsiRNAを用いて、Taxの発現が生体内での免疫応答や細胞増殖におよぼす影響を解析した。Taxに対するsiRNA発現ベクター(pEGFP-1/siTax)は、マウスU6 RNAプロモーターを組み込んだpEGFP-1に挿入し作製した。はじめにpEGFP-1/siTaxの効果をマウス細胞株EL4より作製したEGFP-Tax融合蛋白発現細胞EL4/Gax細胞において解析し、本ベクターがTaxの発現を抑制することを確認した。次に、pEGFP-1/siTaxをラットHTLV-I感染T細胞株FPM1.BPに導入し、Tax発現低下細胞の樹立を試み、発現が60%低下しているサブクローン(FPM1B-siTax27)を得た。一方で、40クローン得たpEGFP-1/siTax導入細胞において、60%以上Tax発現が低下した細胞は確認できず、ある程度のTax発現が感染細胞の増殖に必要であることが示唆された。さらに、FPM1B-siTax27細胞はコントロール細胞と比較してヌードラットでの腫瘍形成・転移能が著しく低下している一方で、Tax特異的CTLに対する感受性も低下していることが確認された。この結果は、Taxの発現抑制により、HTLV-I感染T細胞が生体内での生存に不利になる一方で、宿主免疫系からのエスケープという有利な形質を獲得することを示している。本モデル系は、ATL発症過程での感染細胞と宿主免疫系との相互作用の一端を再現している可能性が示唆され、ATL発症機序の解明、予防法の開発に有用であると考えられた。
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