A型インフルエンザウイルスのゲノムは8種類のマイナス鎖RNAから構成されている。これらのウイルスゲノムRNA(vRNA)のウイルス粒子へのインコーポレーションメカニズムの詳細は、未知のままである。本研究では、インフルエンザウイルスの人工合成系を用いて、NA vRNAに様々な変異を導入したNA-GFPウイルスを作製し、その性質を調べることにより NA vRNAのインコーポレーション・シグナルを同定した。また、そのシグナルを外来遺伝子に付加することで、外来遺伝子を効率良く粒子に取り込み発現するインフルエンザウイルスベクターを作製した。 1)NA vRNAのインコーポレーション・シグナルは、蛋白質翻訳領域にある 変異NA-GFPウイルス粒子に含まれるNAセグメントのインコーポレーション率を求めた。その結果、NA vRNAがウイルス粒子に取り込まれるためには、蛋白質翻訳領域内の配列も重要であることが明らかになった。 2)vRNAが互いのインコーポレーション・シグナルを認識する(ベースペアリングモデル) NA vRNAのインコーポレーション・シグナル近傍の二次構造予測をすると、シグナル部分は分子内でベースペアを作っていないと考えられた。すなわち、他のセグメントのシグナルとベースペアを作り得るため、vRNAがインコーポレーション・シグナルにより互いを認識し一塊りとなり粒子に取り込まれるモデル、ベースペアリングモデルを提唱した。 3)インコーポレーション・シグナルを利用してのウイルスベクター作製 NA-GFPウイルスの開始コドンを改変し、NAではなくGFPの開始コドンから翻訳が始まるウイルスを作製した。また、同様にHAの代わりにVSVのG蛋白質を発現するvRNAと組み合わせることで、NA蛋白質を欠いたままでもレセプターへの結合と細胞からのリリースが可能で、外来遺伝子を発現するウイルスの作製に成功した。
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