インフルエンザウイルスにはヘムアグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の2種類のスパイクが存在する。ウイルスはHAで細胞のシアロ糖鎖に吸着して細胞内に侵入し、そこで増殖した子孫ウイルスは出芽の際に、NAでシアロ糖鎖を切断して感染細胞から遊離すると考えられている。つまりHAは感染の初期過程に、NAは後期過程に働くと考えられている。我々は、NAは感染初期過程すなわちウイルスの吸着侵入過程にも重要な働きを担っていると考えて本研究を行い、以下の成績を得た。 1.インフルエンザA/Aichi/68(H3N2)株をMDCK(イヌ腎由来)細胞およびA549(ヒト肺癌由来)細胞に感染させる際にNA阻害薬を加えると感染効率が1/4〜1/10に低下した。阻害薬の効果は感染初期1時間以内のみの添加で充分であった。 2.感染初期過程は、1)ウイルスのレセプターへの吸着、2)エンドサイトーシスによるウイルスの細胞内取込み、3)ウイルスとエンドゾームの膜融合、に分けることができる。レセプター吸着活性を赤血球凝集価(HA価)で調べると、NAが働く条件下ではHA価は2倍に上昇することが分かり、NAがウイルスのレセプターへの結合に促進的な働きをすることが示唆された。膜融合に対するNAの影響をウイルスの溶血能を指標にして調べると、溶血能はNAの阻害によって1/2に低下した。これはNA阻害によってウイルスの赤血球への吸着が1/2に低下することでも説明できる。従って、1)と3)の過程よりも、2)のエンドサイトーシスによるウイルスの取込み過程がNA阻害で大きく影響されるために感染効率が低下すると推測される。 ウイルスが細胞に感染するためには、エンドサイトーシスの起こる場所に吸着する必要がある。もしウイルスが感染に不適な場所に吸着しても、NAがあればシアロ糖鎖を切断してやがて別の場所に移動できるため、感染効率を上げることができると考えられる。
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