狂犬病ウイルスのリバースジェネティクスを利用し、P遺伝子欠損狂犬病ウイルスを作製し、そのウイルスの生ワクチンとしての有効性を検討した。 先ずは、欠損したP蛋白質を補うため、マウス神経芽腫細胞、ハムスターBHK細胞より、P蛋白質発現細胞を樹立した。ウイルス完全長cDNAプラスミドからP遺伝子のコード領域を取り除いたプラスミドを作製し、これらP蛋白質発現細胞において、P遺伝子欠損狂犬病ウイルスを産生させることに成功した。 このウイルスのin vitroでの性状解析を行ない。増殖速度、転写産物の解析、ウイルス蛋白質の産生等を調べた。ウイルスの増殖、ウイルスタンパクの産生量はP蛋白質発現細胞中で発現しているP蛋白質の量に依存していることが明らかとなった。通常の感染細胞と比べ、およそ5%の量を産生していることが分った。 さらに、in vivoでの性状解析を行ない。この欠損ウイルスは乳のみマウスの脳内接種でもマウスを殺すことなく、完全に病原性を欠失していることが示された。各種接種経路からの中和抗体産生能、防御効果を親株であるHEP株と比較した結果、腹腔内・筋肉内接種において親株であるHEP株と同程度の中和抗体誘導と防御効果を得た。 もうひとつの研究として、安価な抗狂犬病ウイルス免疫グロブリンの生産を目指し、大腸菌で発現させたG蛋白質の一部を抗原とし、鶏に免疫、その鶏卵のIgYを精製、狂犬病ウイルス中和抗体としての有用性を検討した。そのIgY標品は中和抗体として働くことが示され、狂犬病ウイルス感染マウスに投与することで、マウスの生存率を高めることが分かった。これらの結果はこのIgYが現在使用されているヒト、ウマグロブリン製剤に替わりうる有用な製剤であることを示した。
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