Rac1はアクチン再構成に重要なsmall GTPaseであり、様々なシグナル伝達系に関与していることが知られている。Rac1ノックアウトマウスおよび機能喪失変異マウスは報告されていないため、T細胞分化におけるRac1の機能はまだよくわかっていない。我々はT細胞分化におけるRac1の機能を解明する目的で、ドミナントネガティブ型変異Rac1遺伝子(Rac1-N17)の胸腺内T細胞分化に対する効果について検討を行った。 Pax5欠損プロB細胞を用いた新規のT細胞再構築実験系を利用してRac1のT細胞分化における機能を検討した。Rac1-N17とGFPの融合タンパク遺伝子を新規レトロウイルスベクターpMX-PREPに組み込んでPax5欠損プロB細胞に発現させ、RAG2欠損(CD45.1)マウスに移入することによりドナー由来のT細胞を再構築した。変異Rac1遺伝子を強発現している胸腺細胞はCD4CD8ダブルポジティブ(DP)段階まではほぼ正常に分化していたが、CD4およびCD8シングルポジティブ細胞にはほとんど分化していなかった。変異Rac1遺伝子導入DP細胞においてはTCR刺激によるERKの活性化、CD69の発現は阻害されないが、アクチン再構成は強く阻害され、さらにTCR刺激依存性のアポトーシスが増大していることが明らかとなった。変異Rac1発現細胞ではTCR刺激によるbcl-2の発現が抑制されており、これがアポトーシス増大の原因であると考えられた。 以上より、Rac1はpre-TCRのシグナル伝達には重要でないが、胸腺細胞の正の選択に必須であることが明らかとなった。さらに、Rac1はアクチンの再構成のみならず、bcl-2の発現誘導を介したアポトーシス阻止反応においても重要な働きをしていることが示された。
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