研究課題
今年度は、SHP-1によるB細胞抗原受容体(BCR)を介するシグナル伝達の制御機構をより詳細に解明するために、substrate trapping法を用いてマウス未熟B細胞株WEHI-231における新たな基質の検索を行った。その結果、T細胞、マクロファージ、マスト細胞などに発現し、B細胞には発現しないとされてきたアダプター分子でBLNKと構造上相同性が高いSLP-76を同定した。そこでSHP-1とSLP-76の相互作用によるBCRシグナルの制御という観点から解析を進め以下の結果を得た。(1)これまでの報告とは異なり、SLP-76は種々の分化段階にあるマウスB細胞株および正常脾臓B細胞においてmRNA、タンパクとも発現していた。(2)SHP-1はSLP-76を脱リン酸化することによって、チロシンリン酸化を受けたSLP-76と結合するNck/NIK複合体の量を減少させる。その結果、BCR刺激によって誘導されるJNKの活性化をネガティブに、そして最終的な表現型の一つであるアポトーシスの過程をポジティブに制御していることが明らかとなった。(3)BLNK欠失B細胞株を用いた実験では、BLNKの機能を代替するためにはSLP-76に加えて膜結合型リンカー分子LATの発現が不可欠であることが報告されていた。しかし、今回実験に用いたWEHI-231にはLATが発現していないのにもかかわらず、SLP-76が機能していることが明らかになったことから、B細胞においてLATと同様の機能を有する別の分子の存在が想定された。この作業仮説を検証するために、BCR刺激前後の細胞可溶化タンパクを膜画分と細胞質画分とに分けて、それぞれからSLP-76を免疫沈降後、抗リン酸化チロシン抗体を用いたウエスタン解析を行った。すると、BCR刺激以前からSLP-76は膜画分に局在しており、その量はBCR刺激後に増加すること、BCR刺激後膜画分に局在するSLP-76のリン酸化の程度が細胞質画分のSLP-76と比較し減弱していること、そして細胞膜に局在するSLP-76はBCR刺激後にB細胞特異的に発現する膜分子であるCD22と結合することが明らかとなった。CD22の細胞内領域にはBCR刺激後リン酸化されるチロシン残基が6個存在し、SHP-1もここにリクルートされることが報告されていることから、今回の実験結果はCD22がSHP-1によるSLP-76の脱リン酸化反応をおこす足場を提供していることが想定された。以上の結果を論文にまとめ現在投稿中である
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