医療保険制度において、一人当たり医療費に大きな影響を与えるのは年齢構成、所得、傷病・受診状況等と考えられる。直近の国勢調査から65歳以上割合を算定すると、市町村レベルでは約6倍の開きがあるが、都道府県での較差は2倍程度であった。後期高齢者の割合を比較すると、市町村レベルで約8倍の較差があるが、都道府県では2倍強に縮小した。介護保険給付費も市町村(保険者)レベルでは約8倍の較差があるが、都道府県では2倍弱まで縮小する。所得については、政府管掌健康保険の平均標準報酬月額が約29万円に対して組合管掌健康保険は約37万円であった。公的医療保険の意義から考えると、現行の組織は総じて規模が小さく、加入者の年齢、収入などについて構造的問題を抱えている。より大きく多様な集団に再編統合し、年齢、所得などについてはリスク調整を行う必要がある。傷病・受診状況の影響に関連して、将来医療サービス需要を推計したところ、現状の医療環境と傷病状況が続くと仮定すれば、2020年までに入院患者数は約40%増、外来患者数は約20%増となった。しかし医療環境は大きく変化しており、在院日数短縮と介護保険の整備により、入院需要の伸びは減らせる可能性がある。さらにその他の医療環境の変化の影響として、医薬分業の進展が薬剤費増加につながる可能性が示唆された。医薬分業率は都道府県によって大きな違いがあるため、薬剤費への影響も地域によって異なることが予想される。また全国の中規模一般病院において、MRI等の最新医療機器導入や医師数増加と外来患者数増加との間に関連を認めた。医師の分布や最新医療機器、薬剤に対する適切な政策が採られない場合、地域によっては予想以上の医療需要と医療費の増加につながる可能性も示唆される。医療保険制度を持続的に運営するためには、保険組織の再編だけでなく、適切な供給政策を組み合わせる必要があると思われた。
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