日本では、科学的アプローチにより医療事故の対策が立てられているとは、必ずしも言い難い。そこで本研究では、作業解析の手法を用い、医療従事者間の相互作用について検討した。事医療事象報告システムで得られたデータから、医療事故の背景にある問題を抽出し、問題を明らかにすることで、医療事故防止に役立てることを目的とした。 テキストマイニングの手法を用い、医療事象報告に自由記載された医療事象の解析を行った。発生原理、指示者・行為者の疲労度などについて、医療事故発生を予測するモデルを作成した。モデルにより、処置数・病棟スケジュールから行為者・指示者の疲労度を推定でき、医療事故の起こり易さを定量化できた。実際の病棟での疲労度を測定してモデルに投入することにより、モデルは、現実の事象を良く予測した。 さらに、モデル解析の手法を転倒転落事象に適用することで、制御が困難な転倒転落事象の実像をより具体的に明らかにすることができた。また、複数の解析手法の応用により、転倒転落事象の予測精度を高めることができた。その結果に基づき、現行の転倒転落危険度評価手法の見直しを行った。モデルを当てはめて新規の転倒転落危険度評価シートを作成することで、より簡便に危険を予想することが可能になった。 以上より、モデルの作成により、医療事故が発生しやすい状況が推測できることが分かった。したがって、その結果を活用すれば、発生しやすい日には看護師の人数を増やすなど、予防の取り組みが可能になると考えられた。
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