集中治療部門で遭遇する頻度が高く、患者や医療施設が受ける影響が強いと思われる院内感染とヘパリン起因性血小板減少症(HIT)をとりあげ、個々の患者データを採取、集積し、影響する因子、経済性などについて検討した。 集中治療部門における院内感染を調べた結果、呼吸器関連肺炎(VAP)が最も多いことからVAPが患者転帰や経済性に影響を及ぼしていると考えられ、VAPを併発した患者について重症度、人工呼吸器装着日数、在院日数、転帰、診療報酬点数を調べたところ、病院転帰と在院日数、人工呼吸器装着日数と在院日数、診療報酬点数と在院日数で相関を示した。VAPを併発すると、生命予後は不良ではないが人工呼吸管理期間及び入院期間が延長し、医療費が増加するため、患者や家族にとって身体的にも経済的にも負担が増加することがわかった。医療施設にとっても、院内感染対策の改善を図る必要があり、経済的損失も増加すると考えられた。 患者がヘパリンに暴露される機会が多い集中治療部門では、HITを併発する危険性が高く、併発すると障害部位によっては予後の悪化や在院日数が延長することが考えられる。HITの発生の予測の可否、スクリーニングの必要性について調べたところ、臨床診断と抗体検査の結果が一致しないこと、ヘパリンの投与方法や投与量と発生には有意差がなかったことがわかり、発生の予測は不能であると考えられた。また、スクリーニングは予測能力や経済面からも実施する必要性はないと判断できた。 以上のことから、集中治療部門は重症患者を扱い、院内感染の発生が多く、高額の医療費がかかると認識されているが、院内感染対策を徹底すると同時にHITのような特異的な合併症の早期発見に努めることが医療の質を上げることにつながり、医療費の高騰を抑えられると考えられた。
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